認知症介護者のためのブログ

医師を含む複数の専門家による、認知症介護者へのメッセージ。 認知症に関する様々な情報を提供します。

2019年12月

血管性認知症は、脳血流障害といわれる脳梗塞、脳出血などを原因として、認知症が起こっている病態を指します。
脳血流障害といっても、複雑で、動脈硬化がひどいもの、頸動脈の狭窄が強いものなども、脳の血流には大きく影響します。血管の病気も、多岐に渡るので、単純に分類できないこともあります。

脳には、大脳皮質と呼ばれる脳の表面、大脳白質と呼ばれる脳の深部、また、更に深部では、大脳基底核と呼ばれる部分もありますが、脳は場所によって機能が異なるので、脳のどの部分で血流障害が起こってくるかによっても、症状が変わってきます。頭部MRI検査を行って、脳のどの場所に血管性の変化が起きているかを評価することが重要です。
アルツハイマーや、レビーのように、徐々にゆっくりに悪化するというよりも、脳出血脳梗塞などをきっかけにガクッと、階段状に悪化するという特徴や、脳のできることとできないことがばらつく、まだら認知症というような特徴があります。

血管性認知症の場合は、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を伴っていることも多いです。
「認知症を防ぐには?」でも触れていますが、これらは、認知症のリスクファクターです。近年血管性認知症の頻度は減ってきていますが、これは、生活習慣病への関心が高まり、予防に努めた結果かもしれません。進行の抑制にも、これらの病気のコントロールは重要です。血管性認知症の方は、麻痺、筋力低下などを呈していることも多く、身体リハビリも重要です。

生活習慣病のための薬や、脳梗塞の再発予防に抗凝固薬を内服している方など、多数の薬を飲んでることも、血管性認知症の方では少なからず見受けられます。薬が多すぎて、相互作用や体調不良を生じることもありますので、あまりに薬が多い場合は、主治医との相談が必要と思います。

認知症専門医 千葉悠平

レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies: DLB)は、アルツハイマー型認知症の次に頻度の多い認知症です。横浜市立大学名誉教授の小阪憲司先生が世界で初めて発表された認知症としても知られています。
DLB患者さんの脳の中には、レビー小体と言われる構造物が蓄積しています。レビー小体はαシヌクレインと言われタンパク質から構成されています。レビー小体はもともとは、パーキンソン病の患者さんの脳にたまることが知られていました。パーキンソン病の患者さんでは、レビー小体は脳幹に蓄積しますが、DLBの患者さんでは、レビー小体が脳全体にびまん性に蓄積しているという違いがあります。DLBも、パーキンソン病もレビー小体が悪さをしているという共通点があるため、合わせてレビー小体病という言い方をすることもあります。
DLBの特徴としては、認知症症状の他に、パーキンソン病の患者さんでみられる振戦、歩行障害、動作緩慢といったパーキンソニズム、繰り返し現れるリアルな幻視、症状の動揺性、そして、夜寝ているときに夢の内容にあわせて喋ったり体を動かしたりするレム睡眠行動障害があります。これらはDLBの中核症状と言われています。その他にも、向精神薬に対する過敏性、立ちくらみや便秘などの自律神経症状、うつや不安といった精神症状、嗅覚障害といった症状もDLBを示唆する症状と言われています。
DLBの患者さんの脳は、アルツハイマー型認知症の患者さんの脳と比べて比較的萎縮が軽度といわれています。パーキンソニズムを反映すると言われているドーパミントランスポーターシンチグラフィや、心臓の交感神経を反映する心筋交感神経シンチグラフィ検査が診断に有効です。また、脳血流SPECT検査や、FDG-PET検査でも、後頭葉の血流低下や、後部帯状回の血流/糖代謝低下が比較的軽度であるという特徴も診断に有効とされています。
DLBの患者さんを調べると、認知症症状の出現する数年前からレム睡眠行動障害、便秘、嗅覚障害が出現することがあると言われており、これらの症状はDLBの前駆症状として早期診断に有用であると考えられています。
DLBの治療としては、アルツハイマー型認知症にも使われているドネペジルが進行抑制には有効です。ただし、DLBの患者さんは薬物への過敏性を呈することがあるので、使用する場合は医師の指示に従ってください。
DLBの患者さんは、幻視や精神症状、睡眠障害、運動機能障害を呈するなど症状が多彩なので、介護負担が大きいです。また、薬物調整も難しいため、専門の医師の診察が必要になることも多いと思います。記憶障害は軽度であることも多いので、軽度の認知症の方では、幻視については、認知症の症状であることを説明することで安心感を持てることがあります。また、睡眠を十分に取ることで幻視が軽減したり、精神的に安定したりすることもあります。

認知症専門医 千葉悠平

老年期に発症する認知症の中で一番頻度が多いのが、アルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症患者さんの脳では、アミロイドβ、タウ、といわれるタンパク質が蓄積しています。これらによって、記憶を司る海馬といわれる場所を中心に、びまん性の神経細胞死が起こってきます。異常タンパク質は、50代ころからだれでも蓄積されるものですが、(「老化とは」参照)、原因はわかりませんが、体質や生活習慣などの複合的な要因によってある程度を超えてくると神経細胞死が起こってくると考えられています。

典型的なアルツハイマー型認知症は、海馬が中心に障害されるので、初期の症状は「物忘れ」です。これは、覚えたことを忘れる、というよりは、新しいことを覚えられない、といった症状でみられます。同じ質問を何度もする記銘力の障害、食事をとったというエピソードまるごと覚えていないというエピソード記憶障害などがみられます。もののしまった場所を忘れてしまって、誰かにとられたと考えてしまう、「物取られ妄想」は、アルツハイマー型認知症に特徴的です。他にも、日時や場所が答えられない、見当識障害なども出てきます。運動神経症状は初期は目立たないことが多く、動作や思考のスピードについて緩慢さは目立ちません。また、初期には、前頭葉は保たれるので、質問に対して答えられないときに、言い訳をしたり、ニコニコして話を合わせようとする、隣の人に質問をそのまま回してしまうなどの、「取り繕い行動」もみられます。これは、前頭葉の、他人とのコミュニケーションを円滑にしようとする能力が働いているためです。
異常タンパク質は、年単位で徐々に蓄積していくので、脳全体にタンパク質が溜まってくる中等度~重度となってくると、運動神経障害も出現してきます。歩行がふらついて転び易くなる歩行障害や転倒、食事の飲み込みがしにくくなり、やわらかいものでないと、食べられないなどの嚥下障害、誤嚥といった症状が出てきます。この時期には、移動、トイレ、入浴、排泄、食事に介助が必要になってくるので、介護者の負担が徐々に増えていきます。

アルツハイマー型認知症の診断としては、認知機能の評価に加えて、頭部CT,MRI検査、脳血流SPECT検査、FDG-PET検査、アミロイドイメージングなどもあり、診察と検査を組み合わせて診断することが一般的です。確定診断のためには、脳の組織を顕微鏡でみて、アミロイド、タウを確認することが必要ですが、なかなかそこまでする方は少ないかと思います。

アルツハイマー型認知症の治療は、現代医学では難しいですが、進行抑制のための薬がいくつかあります。ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3剤はいずれもコリンエステラーゼ阻害薬といわれ、アルツハイマー型認知症の脳内で不足しているアセチルコリンを増やす作用があります。これにより集中力、覚醒度が上がります。メマンチンは、アルツハイマー型認知症の脳内で過剰になっているグルタミン酸の作用を阻害するという作用があり、神経保護や脳内のシグナル伝達をスムーズになります。これらの薬は、認知症の進行を止めることはできませんが、進行をゆっくりにする効果があり、精神的に落ち着いたり、日常生活動作を維持するといった作用も報告されています。薬には副作用もあるので、医師の説明をよく聞いて使用してください。薬の飲みすぎや、飲み間違いにより、精神的に不安定になったり、予期せぬ副作用が出ることもあります。

薬も大事ですが、脳を実際に使うことも重要です。自宅にこもらないで、人と会うようにする、適切な生活リズム、食事、睡眠、運動などは、大事な要素です。可能であれば、なにか役割を持つことも重要です。せっかく薬をつかって進行を抑制する以上は、生活自体の質をあげていくことを目指していくことが重要と思います。

認知症専門医 千葉悠平

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