認知症介護者のためのブログ

医師を含む複数の専門家による、認知症介護者へのメッセージ。 認知症に関する様々な情報を提供します。

 

日本は4人に1人が高齢者という超高齢化社会を迎え、認知症の増加が大きな問題になっています。厚生労働省の発表では、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症患者になると見込んでいます。

 

誰しもが認知症になる可能性がありますが、認知症になりたい人は誰もいませんよね。

認知症にならないためには、どうしたらいいのでしょうか?

 

 

 

どんなことが認知症発症のリスクになるのか、英国の医学雑誌『Lancet』に発表された論文のデータを紹介します。

Prof G Livingston MD, et al. Dementia prevention, intervention, and care. Lancet 2017; 390: 2673–734

 

下の表をご覧ください。

 

Risk Factor

Relative Risk

Weighted PAF

Early life18歳未満)

①小学校までの教育しか受けていない

1.6

7.5%

Midlife45歳~65歳)

②高血圧

1.6

2.0%

③肥満

1.6

0.8%

④聴力低下

1.9

9.1%

Later life65歳以上)

⑤喫煙

1.6

5.5%

⑥うつ状態

1.9

4.0%

⑦運動不足

1.4

2.6%

⑧社会的な孤立

1.6

2.3%

⑨糖尿病

1.5

1.2%

 

Relative Riskとは、その危険因子を持つ人が、持たない人と比べてどれくらい認知症になりやすいかを表した値です。Weighted PAFとは、その危険因子を取り除いた場合、認知症患者が何%減るかを推定した値です。

 

①を例に説明すると、小児期に小学校までの教育しか受けていない人は、高等教育を受けた人と比べて1.6倍認知症になりやすく、もし小学校までしか行けない人をなくすと、認知症患者を7.5%減らすことが出来る、と読み取れます。

 

 

 

Relative RiskWeighted PAFが高いものに着目してみると、④聴力低下、⑤喫煙、⑥うつ状態などの点数が高く出ています。

中年期の聴力低下を防ぐこと、高齢期のうつ状態を改善すること、禁煙することが、認知症を減らすことに大きく影響します。

 

また、その他に個々人で取り組めそうな項目としては、②高血圧、③肥満、⑦運動不足、⑨糖尿病が挙げられます。健康的な生活をして、これらの生活習慣病を防ぐこと、発症してしまった場合はしっかり治療することが、認知症の予防につながることが分かっています。

 

最後に、高齢期の⑧社会的な孤立が、認知症を1.6倍発症させやすくするということも、着目しておきたいポイントです。大切な人を認知症にさせないためには、孤独にさせないことが重要であると示されています。

 

 

 

認知症は、色々な因子が関わって発症する病気なので、「これを辞めれば絶対にならない!」とか、「これをすると絶対にならない!」と言えるものではありません。

しかし、上の表を参考にして生活習慣を改善させることが、認知症の発症のリスクを低減することにつながるかもしれません。


内分泌・糖尿病内科 医師 千葉ゆかり


物忘れを訴えて病院を受診される患者さんの中に、医療従事者が”treatable dementia”と呼ぶ患者さんが混じっています。Treatableとは、治療可能という意味で、つまり”treatable dementia”とは、治療によって認知機能障害が改善する可能性のある認知症という意味です。

 

認知機能障害を起こすことがある疾患は、代表的なものを挙げるだけもこんなにあります!


・感染性疾患… 脳炎、梅毒、エイズなど

・内分泌・代謝疾患… 甲状腺機能低下症、低血糖発作、ビタミン欠乏症、電解質異常

・臓器障害… 肝不全、腎不全

・中毒性疾患… 鉛中毒、有機溶剤中毒、アルコール中毒

・薬剤性

・正常圧水頭症、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫など


 

これらの疾患によって起きる認知機能障害は、原疾患の適切な治療によって、改善することがあります。よって、認知症の診断を行う際は、これらの疾患が隠れていないか必ず鑑別を行います。


この鑑別には、患者さんのご家族からの情報が重要なヒントになることがあります。

例えば、食事摂取の状況、内服薬の有無や管理状況、職業歴、歩き方はどうか、認知機能障害以外の症状はないか、などなど……。

些細なことでも構いませんので、気になることは是非主治医に相談してください。

思わぬ他の疾患を見つける手掛かりになることがあります。

 

内分泌・糖尿病内科 医師 千葉 ゆかり

認知症は、状態像ですが、認知症を呈する病気は多岐に渡ります。

アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症は、4大認知症と言われており、頻度も比較的多いです。その他にも、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、アルコールによる認知症、ビタミンなどの栄養障害に伴う認知症などもあります。また、高齢者のてんかんが、認知症のように見えることもあります。外傷性の認知症もあります。神経難病といわれる、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症なども認知症を呈すると言われています。

 

身体疾患に伴うものとしては、塩分バランスが崩れている場合、腎機能障害、肝機能障害、心不全などが背景にある場合、内分泌疾患が背景にある場合など体の不調から、脳の機能を悪化させる場合もあります。

 

また、高齢者は、内服薬が多くなり、薬の副作用で、認知症のようになることもあります。

 

ここに挙げたものの他にも、認知症の原因疾患は非常に多岐に渡っており、正確な診断は実はとてもむずかしいです。認知症の専門外来では、認知症の有無に加えて、認知症の鑑別といって認知症の原因を特定するための、診察や検査を行います。

 

それぞれの病気ごとに、症状や経過が異なり、薬物療法や生活の支援といった点でも、違いがあります。また、適切な対応を行うことで、認知機能も改善することがあります。認知症がかなり進んでしまうと治る認知症も治らない可能性が高くなってきます。そのため、早期の受診が、大変重要です。

 

認知症の鑑別のためには、お医者さんは、たくさんの病気の知識を頭に入れる必要があります。アルツハイマーや、レビー小体型認知症にそっくりでも、実は別の病気であることもあります。

 

認知症の鑑別診断は、認知症専門の病院や、全国の認知症疾患医療センター指定病院で受診することができます。一般的には、問診の他、頭部の画像検査や血液検査を行うことが多いです。物忘れを含めて、今までとの違いが気になるようでしたら、一度受診するのが良いでしょう。

 

認知症専門医 千葉悠平

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